【第9章:水分量や集魚力】

このページの記事
»水分量と粘り:崩壊と飛散の様子
»乾いたダンゴほど割れるのが早いのはなぜ?
»速い潮:小さく水分の多いダンゴを使う
»集魚力:弱い方が良い?強い方が良い?
»クロダイが寄ったら小さいダンゴにする理由
»ダンゴ材の水分量と握り加減の調節範囲
   





質問

 海底のダンゴはどんな様子ですか?

回答

 ダンゴ自体の水分量と粘りによって、ダンゴの割れ方、ダンゴ材のバラけ方が異なります。

やさしくない解説

 

・ダンゴの崩壊過程


 結論から言うと……

 ダンゴが乾いて粘り気が弱いほど、ダンゴの崩壊が早く、崩れたダンゴ材は広範囲に飛散します。
 ダンゴが湿って粘り気が強いほど、ダンゴの崩壊が遅く、崩れたダンゴ材は狭い範囲に留まります。


 紀州釣りをやったことのある人なら、大抵の人が「乾いたダンゴほど割れるのが早い」と知っています。しかしそれはなぜでしょうか。

 それは乾いたぞうきんを丸めた状態をイメージするとわかります。乾いたぞうきんに水を吸わせると、自然と膨れて丸みが解けます。最初から水を十分に吸ったぞうきんでは水をかけても吸わないので形状が変化しません。


 これと同じ理屈が紀州釣りのダンゴにも適用されます。だから乾いたダンゴほど崩壊が早いのです。
(粘り気が弱いダンゴほど崩壊しやすいのは当たり前のことなので解説を省略します)

 また、乾いたダンゴほど、広範囲にダンゴ材が飛散します。そして湿ったダンゴほどダンゴ材が飛散しにくいです。これも乾いているぞうきんほどよく膨れる(飛散する)のと同じ理屈です。これも理解しておきましょう。



 これらの理屈を知っていると何が良いか。たとえば次のような小技を使うことができます。

 たとえば釣りの途中で潮が速くなった場合。
 この場合、海底で崩れたダンゴ材が潮下へと大きく流され、それを追いかけた魚たちがダンゴから遠ざかってしまいます。そしてダンゴをつつく魚が減り、結果としてダンゴの崩壊が遅くなります。(下図参照)


 こういうときはダンゴ材をあまり潮下へ流さないようにするために、ダンゴを少し湿らせて、小さめのダンゴを投入する小技があります
 そうすることによって魚たちが散るのを抑えることができるのです。



 また、ダンゴの水分量や粘り気によって釣果は変化します。
 すなわち、乾いたダンゴと湿ったダンゴ。どちらも同じ大きさで、同じタイミングで海底で割れるとしても、一方はクロダイが釣れて、一方はクロダイが釣れないという結果が現実に起こります。

 クロダイは釣り人が思っているより繊細な魚のようです。ダンゴの水分量と粘り気による崩壊のタイミング、早さ、ダンゴ材の飛散の範囲が、クロダイに影響するのは間違いありません。
 だからその日釣れる最高の釣果を引き出すには、ダンゴの水分量や粘り気にも注意して、色々と試す必要があるのです。

 では実際どのように試すのか。
 1つの方法として、ダンゴ材の上部にだけアミエビを足して混ぜておく方法があるのですが……。
 解説が長くなるので、このテクニックは実技編【第1章:ダンゴ材の調整】にて紹介致します。


(ここまでかなり奥深い内容の記事になってしまったのですが、初心者の方はとりあえず「乾いたダンゴと湿ったダンゴには何か違いがあるんだな」と簡単に理解してもらえばOKです)




詳しい解説

 

・集魚力は強い方が釣れるか



 また奥深い内容の記事となってしまうのですが……。

 さて、次のどちら条件の方が、クロダイがよく釣れるでしょうか。前提条件として、どちらの場合も「すでにクロダイはダンゴに引き寄せられている」とします。

 A:夏や秋の高活性期、低集魚力のダンゴ材を小さく握って、ずっとダンゴを投入し続けている場合。
 B:夏や秋の高活性期、高集魚力のダンゴ材を大きく握って、ずっとダンゴを投入し続けている場合。

 もちろん釣りに絶対はないので答えが反転することもあり得ますが、ほとんどの場合、Aの方が、クロダイがよく釣れます。
 これは現実に確かめられた事実なので、なぜそうなるのか理由を後付けで考えてみましょう。

 それはたぶん、Aの方が海に投入した集魚力の総量が少なく、サシエサに食い気が誘われるからでしょう。

 すでにどこかの章で説明した通り、集魚力の強すぎるダンゴには悪影響があります。サシエサより海底に散らばるダンゴ材の方に興味が移ってしまったら、サシエサを食わすことができません。そうはならないために、ダンゴ材の集魚力は可能な限り低く抑えたいのです。そうすればクロダイがサシエサを食います。



 ということで、低集魚力でクロダイを寄せられるなら、低集魚力の方がサシエサの食いが良いということでした。

 しかし冬や春の低活性期は高集魚力でなければ、そもそも前提条件であるクロダイを引き寄せることができません。引き寄せるためには集魚力を強める必要があります。

 こういった事情があるから、時季、活性によって「適切な集魚力」という概念が存在するのです。一年中どこの釣り場でも同じ集魚力のダンゴ材では、安定した良い釣果を出すことはできません。時季と活性によって最適な集魚力は変化するのですから。

 夏や秋の高活性期はサシエサを食わすために低い集魚力を、冬や春の低活性期はクロダイを寄せるために高い集魚力が求められます。



 ところで。
 クロダイが寄ったと感じたら小さいダンゴを固く握って投げるという、紀州釣りの常套手段とも言えるような技があります。これはまさに海に投入する集魚力の総量を抑えることで、サシエサをクロダイに食わせようとしているのです。そして実際に、これでクロダイが釣れることがよくあります。

 また、夏や秋に数釣りできるときのパターンは「小さいダンゴでダンゴアタリが頻発する」という状況です。これはつまり海に投入した集魚力の総量が少なくてもクロダイがたくさん寄っている……という状況なので、サシエサに食い気が誘われて、数釣りできるというわけです。


区切り


 

・ダンゴ材の水分量と握り加減の調節範囲



 難しい概念を説明するために、まずは次のことを確認します。
 
 ・ダンゴ材が乾き切っている(水分量が少な過ぎる)と、釣り人はダンゴを握って作ることができません。たとえば一切アミエビや海水を加えていないサラサラのダンゴ材は、纏まりがないのでダンゴ状に握ることができません。

 ・最低限の水分を加えて、パサパサに乾いている(水分量の少ない)ダンゴ材は、釣り人が全力を使わないとダンゴを握って作ることができません。弱い力ではダンゴが纏まらずに崩れてしまうからです。

 説明

 ・さらに水分を加えて、ダンゴ材がある程度湿っている(水分がある)と、釣り人は60%の強さだったり、80%の強さだったり、100%(全力)の強さだったり、様々な強さでダンゴを握って作ることができます。

 ・さらに水分を加えて、ダンゴ材がかなり湿っている(水分量が多い)と、釣り人はさらに弱く、20%の強さだったり、40%の強さだったり、100%(全力)の強さだったり、自由に握り加減を変えて、ダンゴを作ることができます。

 ・さらに水分を加えて、ダンゴ材が湿り過ぎている(水分量が多過ぎる)と、今度は強く握ってもダンゴが纏まらなくなり、釣り人はダンゴを握って作ることができなくなります。

  説明


 ……ここまでは、よろしいですか? 理解していただいているでしょうか。

 つまり、以下の4つの結論を導くことができます。

 結論1・ダンゴにしようと思ったら、ダンゴ材には最低限(下限値)の水分を入れなければならない。
 結論2・ダンゴ材は水分量が少ないほど握り加減の可変範囲が狭くなる(調整できなくなる)。
 結論3・ダンゴ材は水分量が多いほど握り加減の可変範囲が広くなる(調整できるようになる)。
 結論4・ダンゴにしようと思ったら、ダンゴ材には限界量(上限値)以下の水分量に抑えなければならない。
 
 なんだか言葉にすると難しい感じですが、ここに書いてあることは至極当然のことばかりです。しかし、とても重要な概念です。

 この概念を応用します。
 たとえば、握り加減をずっと一定で釣りがしたいと思ったら、ダンゴ材をパサパサにすればよいのです。なぜなら水分量の少ないパサパサのダンゴ材は握り加減の可変範囲が狭いです。常に100%(全力)でないと握ることができない乾いたダンゴ材にすれば、自然と握り加減は一定となります。(常に全力だから疲れるでしょうが)

 もう一例言います。
 たとえば、乾いたダンゴ材を100%の力で握って、そのダンゴが海底で2分で割れたとしましょう。もっとダンゴを早く割りたいと思ったら、水分を加えればよいのです。
 ……こう言うと、きっと読者の中には「いや、乾いたパサパサのダンゴの方が早く割れるはずでは? 水分を入れるのは逆効果では?」と考える人もいるでしょう。

 確かに、水分を加えたダンゴ材を再び100%の力で握ればその通りになります。おそらく海底で割れるまで2分を超えるダンゴになるでしょう。
 しかし水分を加えると言うことは、握り加減の可変範囲を広げるということです。いままで100%の力でしか握ることができなかったけど、今度は80%の力や50%の力で握れます。そしてさっきまでよりずっと弱い力で握れば必ず2分より早く割れます。

 「乾いたダンゴほど早く割れる」しかし「ダンゴを早く割りたかったら水分を加えろ」という論理は一見矛盾しているようですが、ちゃんと成立しているのです。

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